7割の企業が残業対策を実施するも減少幅は-0.3時間にとどまる結果に

パーソルキャリア株式会社が運営する転職サービス「doda(デューダ)」は、20~60歳代のビジネスパーソン1000名と企業の人事担当者500名を対象に「残業」をテーマとした調査を実施した。

【調査結果サマリー】

  • 7割の企業が残業削減対策を実施。業種別では「運輸・物流」が最も多く8割。
  • 残業時間が「減った」と感じる個人は2割にとどまる。平均残業増減は「-0.3時間」。
  • 26.3%の個人が「隠れ残業」の経験あり。職場での習慣化や評価される風潮が背景に。
  • 20、30代は、6割が残業の多さをきっかけに転職を検討。全年代平均でも5割強が検討と回答。

<調査背景>
さらなる生産年齢人口の減少が見込まれるなか、多様な働き方を選択できる社会の実現や労働生産性の向上を目的とした「働き方改革」を進めるため、2018年に「働き方改革関連法」が公布。これに基づき8本の法律が一括改正、順次施行されています。そのなかで、ビジネスパーソンの興味・関心が高いものとして、労働基準法の改正により施行された「時間外労働(以下、残業)の上限規制」があります。
2020年4月には、大企業・中小企業問わず残業時間に罰則付きの上限が規定され*1、2023年4月からは、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。
さらに2024年4月以降は、適⽤が猶予・除外されていた「建設」や「自動⾞運転」等の事業・業務も対象となり、これにより発生が懸念される問題が「2024年問題」と表現されるなど改めて注目が高まっています。
そこで今回、「残業」の実態を明らかにするため、ビジネスパーソン(以下、「個人」)と、企業人事担当者(以下、「企業」)へ調査を実施。これらの結果を、dodaキャリアアドバイザー*2とdoda編集長の考察・アドバイスを通じて解説します。
*1 時間外労働の上限規制の施行:⼤企業は2019年4⽉から、中⼩企業は経過措置を受け2020年4⽉から。「建設事業」「自動⾞運転の業務」「医師」「⿅児島県及び沖縄県における砂糖製造業」は、5年間の適用猶予
*2 dodaキャリアアドバイザー:業界、職種、エリア別の動向などに精通し、キャリアカウンセリングを経て求人の紹介から転職先決定までトータルにサポートする専任担当

<調査結果>
【残業の上限規制の現状】

7割の企業で、残業削減に課題感
削減対策を取っている企業も7割。業種別では「運輸・物流」が最も多く8割

企業に対し残業の上限規制の現状について確認したところ、全体の70.4%が残業削減に課題感をもっていることが明らかに。業種別では、上位から「メーカー(74.8%)」「IT・通信(72.4%)」「運輸・物流(69.7%)」と並びました(【図1】参照※3)。
次いで、直近1年間に取った残業削減対策の有無を尋ねると、「取っている」と回答した企業は全体で70.2%に上りました。業種別でみると「運輸・物流」が最も高い割合(78.8%)を示す結果に。「運輸・物流」は、残業時間の上限規制の適用猶予を受けており、2024年4月から適用が開始されます。そのため、特に喫緊の課題として企業割合が高まったと考えられます(【図2】参照※3)。
さらに、「今後残業削減のための対策をとる予定がある及び検討している」と回答した企業も計78.0%となり※4、対策内容は上位から「労働時間の可視化(63.4%)」「業務効率化のためのツール導入(50.7%)」「人員の確保(49.3%)」と続きました※5。
残業の上限規制をうけ、業務効率化のためのDX推進、社員の定着率向上に向けた就業環境改善、新規採用活動の活性化も加速することが考えられます。

 

*3 全業種分類:IT・通信、メディア、金融、メディカル、メーカー、商社、小売、運輸・物流、レジャー・外食、エネルギー、建設、不動産、コンサルティング、人材サービス、その他
*4 全回答:「予定がある(42.6%)」「検討している(35.4%)」「予定はない(22.0%)」。n=500、単一回答。
*5 4位以降の回答:事前申請制の導入(43.7%)、ノー残業デーの導入(43.7%)、オフィス一斉消灯(15.5%)、PC自動シャットダウン(12.2%)、残業時間の上限アラートメール発信_本人・上長宛て(11.3%)。n=213、複数回答。

【個人の残業実態と捉え方】

残業時間が「減ったと思う」は、計18.7%にとどまる
最も残業時間が減ったのは「メーカー」となり-1.1時間。一方「運輸・物流」は-0.2時間

次に個人へ、時間外労働の割増賃金率の引き上げが始まった2023年4月を起点に、4月以前と以後(12月まで)の残業時間(月平均)を比較し、どのように変化したかを尋ねました。
結果からは、「変わらないと思う」の回答が最も多く68.6%となり、「減ったと思う」の回答は計18.7%にとどまりました※6。具体的な残業時間では、2023年4月以前の平均は「14.8時間」、4月以降が「14.5時間」と差分は-0.3時間になることが明らかに(【図3】参照)。最も残業時間が減ったのは「メーカー」となり-1.1時間。一方「運輸・物流」は-0.2時間となりました。
7割の企業で残業削減のため対策を講じている様子がみられましたが(【図2】参照)、残業時間の減少傾向は低く推移しているようです。

※6 全回答:「とても減ったと思う(5.6%)」「減ったと思う(6.0%)」「やや減ったと思う(7.1%)」「変わらないと思う(68.6%)」「やや増えたと思う(7.3%)」「増えたと思う(3.3%)」「とても増えたと思う(2.0%)」。n=885、単一回答。

残業理由は「業務が終わらないため」。20代は「残業代を得るため」が約半数

個人に対し残業をおこなう理由を尋ねたところ、「業務が終わらないため(75.3%)」が2位を大きく引き離し最上位となりました。20代~60代のどの年代においても7割以上が同様の回答をしています(【図4】参照)。
この結果には、業務量と労働力の不均衡さが表れています。最新のdoda転職求人倍率レポート※7からも人材不足が読み取れます(【図5】参照)。そのため、一人あたりの業務負担が大きくなることで、残業が発生する構造がみてとれます。
これは、7割の企業が残業削減の対策を取っているにもかかわらず(【図2】参照)、残業時間にほぼ変化が見られない要因の一つといえるでしょう。
また、年代別回答からは、20代の「残業代を得るため」の回答割合は約半数(47.8%)となり、全体平均より約15ポイント高い結果となりました。その他、残業する理由には年代によって変化がみられました(【図4】参照)。

※7 doda転職求人倍率:dodaの会員登録者(転職希望者)1人に対して、中途採用の求人が何件あるかを算出した数値。中途採用市場における需給バランスを表すもの。最新のdoda転職求人倍率はこちら

「隠れ残業」の経験は26.3%
20代は「職場の文化」、30代は「隠れ残業を評価する風潮があるため」と、年代により実施理由に差

併せて、出勤前や退勤後、または休日など、申告をおこなっていない又は申告よりも長くはたらく「隠れ残業」の実態を確認しました。
「隠れ残業」を行ったことがある個人は26.3%で、実施する理由は図4の残業理由と近しい「労働時間と業務量があっていないため」が41.4%で最多に。また、年代ごとに確認すると、20代は「隠れ残業が職場の文化として習慣化しているため」、30代は「評価する風潮があるため」、40代は「残業の申請が面倒なため」といった理由が、全体平均より10ポイント以上高い結果を示しました(【図6】参照)。

個人の残業実態を紐解いてみると、残業はシンプルな業務量と人的リソースの不均衡さに加え、長時間労働が評価されやすい風土、また賃金上昇を求める経済的理由からも発生していると推測できます。どちらも、対策成果が早急に表れづらく、対策を講じる企業割合に対して残業の減少幅が小さい背景の一つとうかがえます(【図4】【図6】参照)。

20、30代の6割は、残業時間の多さが転職を検討するきっかけになると回答

最後に、残業時間の多さをきっかけに転職を考えるかを尋ねたところ、計55.5%が「考える(考える 18.9%、やや考える 36.6%)」と回答しました(【図7】参照)。特に、20、30代で顕著となっており、20代(計62.0%)、30代(計65.0%)と60%を超える結果が見られました。
残業の多さを理由に転職を考える理由としては、「ワークライフバランスが崩れるから」「体に負担が多いから」「残業がある会社は人手が足りない。人手が足りない会社は財政が良くないから」など、ワークライフバランスや自身のヘルスケア、会社へのロイヤリティ観点の声が寄せられました。
転職を考える残業時間は、「40~60時間未満(12.9%)」が一番多く、次いで「10~20時間未満(11.5%)」が並びました。「10~20時間未満」は、図3で示した平均残業時間「14.5時間」が含まれる回答分類です。平均的な時間であっても、転職検討のきっかけになることが分かります。
一方で、「残業がない」も18.0%と高い割合を示しました。図4の結果の通り、残業代を賃金の一部と考え、まったく得られないことへの懸念もうかがえます(【図8】参照)。

<dodaキャリアアドバイザー解説>

残業時間の多さは、転職を検討するきっかけになると5割強の個人が答えています。
残業理由を示す図4、6の結果から、残業はワークライフバランスやヘルスケアへのマイナス影響、ロイヤリティの低下などのリスクがみられましたが、キャリア形成の観点から考えると、もう一つ「視野が狭くなる」というリスクも忘れてはいけないポイントです。
世の中のニュースや同業界・同年代の動向にアンテナをたて、インプットしようというスタンスには、どうしても時間が必要になります。残業が増えた結果、「視野が狭くなり」自分自身がガラパゴス化しているという状態にならないように注意が必要です。
転職希望者とキャリアカウンセリングをおこなうなかでも、残業を減らすために転職に踏み切るケースも増えています。
その場合も、視野を広く保つことが重要です。自分の強みや就きたい仕事は何かを理解し、志望業界や企業のニーズを知る(社会を知る)ことで、現在の市場価値や、さらに市場価値を高めるために何が必要かを知ることにつながるでしょう。

doda編集長 総括

今回は「残業」をテーマに調査を実施し、企業への調査からは、7割の企業で残業削減に課題感を持ち、実際に対策を取っていることが分かりました。
一方で、実際の残業時間の減少幅は-0.3時間にとどまる結果になりました。その背景には、業務量と労働力の不均衡さに加え、残業が評価されやすい風土、また賃金上昇を求める経済的理由なども浮き彫りになりました(【図3】【図4】参照)。
「残業」が毎日発生しないことが、正しいはたらき方というわけではありません。ただ、年中仕事しかしていない状態にあるならば、自分自身に警鐘を鳴らす必要があるかもしれません。客観的に現状を把握しづらい状況となっている可能性もあるからです。
残業時間の多さをきっかけに転職を検討する割合は5割を超える結果となりました(【図7】【図8】参照)。上述のとおり、求人数は増え転職求人倍率も高まっていますが(【図5】参照)、一方で企業の採用スタンスは、積極採用と慎重採用に分かれる傾向も確認できています。そのため、転職を検討する際は、まずは情報を取り入れ、企業が求める人物像と自身の状況がどのくらいあっているか、また、企業が働き方に対してどのような姿勢を取っているのかなどを知るところから始めるとよいでしょう。働き方への感度が高い企業の方が中期的な経営視点を持っているといえます。「残業」削減への取り組みも、転職活動における判断材料の一つになるでしょう。
転職活動について悩みや不安をお持ちの際は、dodaキャリアアドバイザーにご相談ください。

【調査概要】
「残業」に関する調査
個人対象者:全国の従業員規模10名以上の企業ではたらく20~60歳代男女、会社員(正社員・契約社員)※人事担当、取締役相当、代表取締役・社長相当、その他管理職、管理職ではないが管理職相当を除く
集計対象数:1,000名(性年代均等割付)
企業対象者:全国の従業員規模10名以上の企業ではたらく20~60歳代の人事担当者
集計対象数:500名
調査手法:インターネット調査
調査期間:2023年12月28日~2024年1月5日
※集計時に小数点2位以下を四捨五入しているため、総計が100.0%とならない場合があります。

転載元:PR TIMES(パーソルキャリア株式会社・プレスリリース)

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